世界を破壊する魔法
サークル「もっきゃりぺお」が手がけたフリーゲームの感想
今夏満を持して公開され、2時間弱でクリアした。
ジャンル名は閉塞百合ジュブナイルノベルゲーム。今では数少ないであろう読み進めるタイプの紙芝居ゲーム。
さて、どんなゲームなの?と聞かれたら、
年頃の少女が望まない虐めや暴力を体験しながらも、奇麗な世界を探し求めるひと夏の物語といったところ。
世界を破壊する魔法が本当にあるとして、叶ったら自分たちも壊される(消える)のではないか。
そんな疑問を抱かせて始まる、百合と暴力表現を混ぜ込んだヒューマンドラマ。
ちょうど舞台と同じ夏に公開されたので、今だと蒸し蒸しとした空気感といっしょに味わえるのがよい。
ジャンル的におすすめできる人はやはり百合好きか。これは外せない。
あとはリアリティのある地に足のついた作品好き。暴力表現を認めるわけではないが。
おすすめと言っておきながら、実はわたしがこの作品を遊んだ理由は今では貴重な紙芝居ゲーだったことと、某掲示板でたまたま目に止まったからである。
個人的に良かった点のひとつに世界観の構築が挙げられる。
終始物語の核心にほど近いとされる雑木林でのシーン。
そこで流れる雑木林の葉音と木洩れ日が、読み終えた今も頭に焼き付いている。
田舎出身の自分にとっては雑木林の葉擦れ音が懐かしく、学童期を想起させるに足る背景デザイン。その音と背景には思考を鈍らせ、善悪の判断や時間の流れすらかき消す力があると改めて感じた場面だ。
団地の裏の雑木林
場所自体は身近でありきたりに思うかもしれない。だがそこをピンポイントで突いていることに物語の精巧さを感じざるを得ない。
ここに真意を埋めたシナリオ担当のみるきー氏に敬服の気持ちを抱いた。
登場人物は大きく3人、お話も2時間かからないていど。
1本の映画を観終えたような充実感あり。
ノベルゲーに普段触れない人でも読み終えやすいショートストーリーは、若年世代にこそ体験してほしい。虐め,暴力,過激な性表現に鬱々とした感情を呼び起こされるが、そこも含めて受け入れられてほしいなと思う。
ここ数年、紙芝居ゲームにあまり触れていなかったわたしがマイペースに読み進めるには新鮮かつ刺激の強い作品。近年は似通ったジャンル(恋愛青春群像劇等)のサブカルに触れていたため、そんな世界観が当たり前だと錯覚していると本作は面食らった。
最後に、わたしがよく遊んだ紙芝居ゲームにminoriというブランドがある。その話をすこしだけ。もう10年以上も前だがどれもリアリティを保ちつつ暗い作品が多かった。
ef - a fairy tale of the two
......etc.
ゲーム内でもリアリティを求めている自分が「世界を破壊する魔法」に目が止まりプレイできてよかったと思う。かわいい少女の絵柄に被せるような攻撃的な主題と数々に織り成す暴力表現。
わたしが今までにプレイした紙芝居ゲーとは正反対な内容だが、どこか似通っている部分があると思うのは作風に惹かれているからかもしれない。
長くなったが今いちばんおすすめしたいゲームだ。
お借りした画像と参考HP