思いやりの精神、その心に感服される

一か月とすこし前のはなし。

 

 

うっかりしていたのか、誤って右手に火傷を負った。

 

親指と人さし指のあいだの指間膜、そこに2cmほどの水疱までできてしまった。

 

情けないことにお箸もまともに持てず、2週間近くは左手で食事をとる事態。

 

ほかにも家事が捗らず、TVゲームの操作にまで影響がでて悶々とする日々。

 

ところが職場に限っては、ひとりで作業する時間が長いからか、他人に迷惑をかけてしまうことは何一つなかった。

 

不幸中の幸いだろうか。

 

 

ある日、ぼくは夕飯を求めて近所のスーパーへ出かけていた。

 

会計がすすみ、お釣りを渡そうとした瞬間。

 

財布を持っていた右手から、ぼくの顔に視線を移した店員が小声で言った。

 

「お大事になさってくださいね」と。

 

「……あ」

 

すぐさまお礼を伝えようとするも、言葉が喉の奥でつかえて、うまく声に出せない。

 

会釈か咳なのか、なんともいえない姿を曝け出しながら、その場をあとにした。

 

近くのテーブルで荷物を整理していたときも、店員の視線を背中で感じていた。

 

店員の心情が感じとれる声色、フレーズか。

 

人が本来持っている温かさとはこういうものなのかもしれない。

 

 

帰り道。

 

もし、店員がぼくだとしたらどうだったか、そんなことを考えていた。

 

何の前触れもなく、ふと出会った見も知らぬ他人に声をかけてあげられたか。

 

同じ状況のありさまを見て、なにか感じることはあったとしても、きっと何も言えずに淡々と業務を進めていたとおもう。

 

学生時代からわたしは何を学んできたんだと言わざるを得ない光景に、悄然としてうつむいた。

 

けれども、この火傷のおかげでひとつ勉強になったと思えば、けがの代償として得たものは大きい。

 

 

お礼、言いそこなったな……。

 

ありがとう

スーパーの店員さん